メダカの屋外飼育をしていると、季節の移り変わりや天候の変化には常に気を配りますよね。特に夏場など、急な天候の崩れで気になるのが「雨」の存在ではないでしょうか。
今回は、ごく稀なケースではあるものの、大切なメダカを守るために絶対に知っておいてほしい「酸性雨」の危険性についてお話しします。
ひとくちに雨と言っても、実は色々と種類があります。僕たちの飼育容器にたっぷりと降り注いでも全く問題ない雨もあれば、メダカの命を脅かすような「問題のある雨」も存在します。
基本的には、雨は空から降ってくる「天然の蒸留水」です。一度に大量の雨が入って水温が急降下したり、底に溜まった汚れが巻き上がったりしなければ、そこまで神経質になる必要のない雨の方が多いと言ってもいいでしょう。

では、僕たちが警戒すべき「問題のある雨」とは一体どういったものでしょうか?
その代表格であり、極端な例でもあるのが「酸性雨」です。ここで少しだけ専門的なお話をさせてください。
大気汚染がほとんどないきれいな空気中で降る雨でも、空気中の二酸化炭素が自然に溶け込むため、理論的なpHは約5.6の弱酸性になります(地域の火山ガスや土壌の影響で多少変動します)。
しかし、工場や発電所、自動車の排ガスなどから放出される二酸化硫黄(SO₂)や窒素酸化物(NOₓ)、さらに火山活動などによって放出される同様のガスが大気中で化学反応を起こし、硫酸や硝酸といった強い酸性物質となって雨に溶け込むと、pH は 5.6 を下回ることがあります。
一般には、このように本来より強い酸性を示す降水(しばしば pH 5.6 未満)を「酸性雨」と呼びます(5.6 という値は絶対的な定義ではなく、CO₂由来の酸性度を基準とした目安です)。

極端な事例を一つ紹介します。
2000年7月8日、三宅島で大規模な噴火が発生しました。
その後も断続的な噴火や山頂火口からの大量の二酸化硫黄放出が続き、関東付近では8月から9月にかけて火山ガスに起因するとみられる異臭騒ぎが各地で報告されました。
当時、三宅島から約1,200km離れた札幌市でも酸性雨の調査が行われ、同年9月に一時的にpH4.0程度の強い酸性の雨が観測された事例が報告されています。
この酸性雨については、三宅島噴火による火山ガスが長距離輸送された影響である可能性があると指摘されていますが、札幌で観測された酸性雨が三宅島起源であることが確実に証明されているわけではなく、他の大気汚染要因の寄与も含めて慎重な評価が必要だと考えられます。
火山の噴火というと、どうしてもその周辺地域の直接的な被害にばかり目が行きがちです。しかし、このように遠く離れた地域であっても、噴火の規模や上空の風向きによっては、一時的に強烈な酸性雨の原因になる可能性も考えられます。
噴火直後ではなく、ガスが移動してしばらく時間が経過したのちに降ってくることもある。つまり、酸性雨は「いつ、僕たちの住む町に降り注ぐか予測が非常に難しい」という厄介な性質を持っているとも言えます。
では、この「pH4.0」という数値の雨が、屋外の飼育容器に入ってしまうとどうなるのでしょうか?
一般的にメダカが健康に暮らしやすい水質は、おおむねpH6.5〜8.0前後の中性〜弱アルカリ性です。
pHは1違うごとに水素イオン濃度が約10倍変化する指標なので、pH4の雨はpH7付近の飼育水と比べると水素イオン濃度が約1000倍高い(酸性が強い)状態になります。
特に、水量が少なくて、ちょっとの酸やアルカリでpHが大きく変わってしまう容器では、こうした雨が大量に混ざるとpHが急激に下がり、メダカに強いストレスや致命的なダメージを与える危険な状況になり得ます。
自然の池や川なら水量が多いため、影響は薄まりますが、僕たちがメダカを飼育している限られた水量の容器では話が別です。すぐに水が入れ替わってしまう(雨水が混ざりきってしまう)環境において、このような雨は本当に危険です。
急激に水が酸性に傾くこと(pHショック)は、メダカにとって命に関わる重大なストレスになります。エラの細胞や機能が強いダメージを受けて呼吸がうまくできなくなったり、体内のイオンバランスや浸透圧調整が乱れたりすることで、状態によっては短時間のうちに多くの個体が死んでしまう(ほぼ全滅してしまう)こともあります。

もし、身近で火山の噴火があったり、あるいは普段から工業地帯の近くなど大気中に汚染物質が留まりやすい地域で飼育している場合は、雨に対して少し警戒しておく必要があります。
こういったリスクが考えられる時の対策は、シンプルですが「飼育容器に波板などでしっかりと蓋をして、雨の侵入を物理的に防ぐ」これに尽きます。
また、普段からできる予防策として、牡蠣殻(カキガラ)やサンゴ砂などをネットに入れて容器に沈めておくのも効果的です。これらは水が酸性に傾いた時にミネラル分を溶かし出して中和してくれる「緩衝作用」を持っているので、万が一酸性雨が入ってしまっても、急激なpHの低下をある程度和らげてくれます。

はるか遠く離れた場所で起こった自然現象が、巡り巡って庭先のメダカたちに牙を剥くかもしれない。少し怖い話になってしまいましたが、正しい知識を持ってしっかりと対策をしておけば過度に恐れる必要はありません。大切なメダカたちを守るためにも、ぜひ頭の片隅に置いておいてくださいね。