「春に生まれた稚魚、最初はあんなにたくさんいたのに……」
夏本番、ふと飼育容器を覗き込んで、そんな風に首をかしげた経験はありませんか?
春から初夏にかけては、毎日のように孵化が続き、針子(生まれたての稚魚)たちで水面が賑わいます。しかし、順調に見えたのも束の間。夏~秋になる頃には、100匹近くいたはずの稚魚が、わずか数十匹、時には数匹にまで減ってしまっている。
「病気かな?」「ヤゴなどの天敵に食べられた?」
もちろん、そういった要因も考えられます。しかし、水質悪化や病気の兆候が見られないのに減っていく場合、もっと根本的な「ある変化」を見落としている方が多いです。
今回は、夏場のメダカ飼育で陥りがちな、意外な盲点について、少し専門的な視点も交えながらお話しします。
春から初夏にかけて、たくさんの稚魚が孵化します。
しかし、順調に育っていたはずのメダカたちは、成長の途中で少しずつ数を減らしていきます。
秋には、100匹近くいた稚魚がわずか数十匹に…。
どうしてなのでしょうか?
こういった時に考えられるケースはいくつかあります。
水質の悪化、病気、外部天敵、色々とありますが、今回は少し視点をずらした上で1つご紹介していきます。
それが大きくなっていることを忘れてしまっている。といったケースです。

まず、メダカの赤ちゃんである「仔魚(しぎょ)」、通称・針子について考えてみましょう。
生まれたばかりの彼らは、全長わずか4mm~5mm程度。本当に糸くずのように小さいですよね。
この時期、彼らが生きるために必要なエネルギーや、排出する排泄物などの量は、成魚に比べればごくわずかです。
例えば、針子専用のパウダー状の餌。見た目には水面に広がって多く見えますが、質量としては微量です。当然、彼らが出すフンや尿(アンモニア)の量も極めて少なく、「生体そのものが水を汚すスピード」は非常に緩やかです。
また、酸素の消費量についても同様です。体が小さければ、呼吸によって消費される酸素量も少ないため、エアレーション(ぶくぶく)がない止水環境でも、酸欠になることは稀です。

つまり、針子のうちは「生体の数が多くても水質が維持されやすい時期」だと言えます。
ここが一つ目の落とし穴です。
針子のうちは、10リットル以下の比較的小さな容器でも、100匹単位で飼育することが可能です。

しかし、彼らは生きています。仔魚たちもいつまでも小さいわけではありません。
数週間もすれば、体長は10mm、15mmと成長し、立派な「稚魚」「幼魚」へと変わっていきます。
ここで意識しなければならないのが、「体積と代謝の急増」です。
魚の体長が2倍になると、体重(体積)は2倍どころか、その数倍に増えます。体が大きくなれば、生命維持に必要な酸素量も、排出するアンモニアの量も、針子の頃とは桁違いに跳ね上がります。
僕たちが与える餌の量も、成長に合わせて無意識に増やしていますよね?
増えた餌、増えた排泄物、増えた酸素消費量。
これらが、「針子の頃と同じサイズの容器」の中で起こるとどうなるでしょうか。
当然、水質が悪化するまでのスピード(バクテリアの分解が追いつかなくなる限界点)は、加速度的に早くなります。
「先週までは水換えなしで大丈夫だったから」という油断が、成長した彼らにとっては命取りになります。

成長と共に排泄量、運動量、酸素消費量、食事の量、それら全てが変わっていることを覚えておく必要があります。

自然界には「環境収容力(キャリング・キャパシティ)」という言葉があります。
ある特定の環境(容器)で、継続的に生存できる生物の数は決まっている、という法則です。
メダカの屋外飼育、特に濾過フィルターを使わない「止水飼育」の場合、この法則が顕著に現れます。
最初は100匹の針子がいても狭く感じなかった容器。しかし、彼らが成長するにつれて、その容器の「収容力」を超えてしまいます。
収容力を超えた過密状態になると、以下のような「自然の間引き」が始まります。
なので、「何もしなければ、その容器で無理なく飼える数(適正量)になるまで、勝手に減っていく」という現象が起こります。
適切なお世話が出来ているにもかかわらず、100匹いた稚魚が30匹になったのなら、それは「何かが起きて死んだ」のではなく、「その容器の実力が30匹分だった」ということになります。

これを防ぐには、「物理的に水量を増やす(容器を大きくする)」か、「密度を下げる(サイズ分けをする)」しかありません。
「なぜ特に夏場に減るのか?」
これには、変温動物であるメダカの生理機能と、化学的な要因が絡んでいます。
夏場、水温が30℃近くまで上昇すると、メダカの「活性」と「代謝」はピークに達します。よく動き、よく食べ、そして爆発的なスピードで成長します。
成長が早いということは、前述した「容器の定員オーバー」が、春先よりも短期間で訪れることを意味します。
さらに厄介なのが「溶存酸素量(水に溶ける酸素の量)」の問題です。
水に溶け込むことができる酸素の量は、水温が高くなればなるほど減る**という性質があります(ヘンリーの法則)。
この「需要と供給」が不釣り合いな状態で、過密飼育を続けるとどうなるか。
夜間、光合成が止まったタイミングなどで深刻な酸欠が起き、体力の少ない個体からひっそりと落ちていくきます。また、アンモニア等の水質悪化に関しても同じことが言えます。これが、夏場に「いつの間にか減っている」正体のひとつです。

もちろん、メダカが減る原因はこれだけではありません。
ボウフラやヤゴ、鳥などの外部天敵による捕食、寄生虫や細菌性・真菌などの病気、急激な水温変化によるショックなど、要因は複数あります。
ただ、今回の記事では、そうした明確な敵や病気以外でも、「成長そのもの」がリスクになり得るという、見落としがちな視点にフォーカスを当てて解説させていただきました。
※本記事の内容を含め、より詳しい解説は僕のYouTube動画でもご覧いただけます。映像で見るとサイズ感の変化がより分かりやすいかと思います。
まとめ
メダカ飼育において、「現状維持」は「悪化」と同義になることがあります。
仔魚から稚魚、幼魚、若魚へと成長する過程は、単に体が大きくなるだけでなく、水を汚すスピードや酸素の消費量が劇的に変化する過程でもあります。
「減ってから対策する」のではなく、「成長に合わせて先回りする」。
この意識を持つだけで、秋に残るメダカの数は劇的に変わるはずです。夏場の成長スピードに負けないよう、僕たち飼育者側も臨機応変に対応していきましょう!
