先日の動画では「風でメダカが死んでしまう」という少しショッキングなテーマでお話ししましたが、今回はその内容をさらに深掘りし、学術的な視点や物理法則も交えて、なぜ「冬の風」がメダカにとって致命的なのかを解説します。
経験則だけでなく、理屈(メカニズム)を知ることで、より確実な冬越し対策が見えてきます。

結論から言えば、真冬の強風は、低温以上に危険な存在です。
多くの飼育者さんが「気温(水温)」には敏感ですが、「風速」や「湿度(しつど)」の影響を軽視しがちです。しかし、冬の風は以下の3つの物理・化学的過程を通じて、メダカを死に至らしめます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
冬の風は「空っ風」と呼ばれるように非常に乾燥しています。
動画でもお話ししましたが、風が吹くと「蒸発」が加速し、数日で驚くほど水位が下がります。
これは気象学や物理化学において「ドルトンの蒸発法則」として説明される現象です。これによると、水面からの蒸発スピードは、主に以下の2つの掛け合わせで決まります。
無風状態であれば、水面付近の空気は蒸発した水分ですぐに飽和状態(湿った状態)になり、それ以上蒸発できなくなります。
しかし、風が吹くとどうなるか。 湿った空気が常に吹き飛ばされ、「乾燥した新しい空気」に置き換わり続けるため、蒸発が止まることがありません。
冬場に起きているのは、まさにこの現象です。 「餌切り」をしてお世話の回数が減り、つい容器から目を離している間に、水位がガクンと下がってしまう。その原因はここにあります。

「風が吹くと水温が下がる」
これを感覚的に理解するために、動画では「ホットコーヒーを息で冷ます原理」を例に挙げました。
これを熱力学の視点で解説すると、2つの冷却作用が働いています。
水が蒸発して水蒸気になるとき、周囲から熱を奪います。これを気化熱(潜熱)と呼びます。この熱エネルギーは水自身から奪われるため、蒸発すればするほど水温は下がります。前述の通り、風によって蒸発が促進されると、水面から猛烈な勢いで熱が持ち去られ、条件によっては気温よりも水温が低下することさえあります(湿球温度への接近)。
これは水と空気の温度差による直接的な熱移動です。 水面と接している空気の層(境界層)は、水温によって少し温められています。 しかし、風はこの「温まった空気の膜」を常に吹き飛ばし、冷たい空気を直接水面に触れさせ続けます(強制対流)。
人間が風速1m/s増すごとに体感温度が約1℃下がると言われるのと同様、水面も冷たい風にさらされ続けることで、熱エネルギーを強制的に奪われ続けます。

僕が最も警鐘を鳴らしたいのがここです。
「蒸発するのは純粋なH2O(水)だけ」という事実です。
飼育水の中には、以下の成分が溶け込んでいます。
水分だけが蒸発すると、これらの濃度は高まります。動画では「2日目の煮詰まったカレー」と表現しましたが、専門的にはTDS(総溶解固形分)の上昇を意味します。
「蒸発すると水はどうなるのか?」そして「それを踏まえてどう足し水すべきか?」
蒸発すると、飼育水はどう変化する?
一言で言えば、「不純物だらけの『濃い水』」になります。
水分(H₂O)だけが空気中に逃げ出し、以下の成分が水槽内に取り残され濃縮されます。
など
ここが危険なポイント
メダカ達はこの特殊な環境、「濃縮された飼育水」に体を慣らして(適応して)ギリギリ生きています。
上記の「極限状態」の水に、新しい水を入れるわけですから、少しの手順ミスが命取りになります。以下の3点を必ず守ってください。

だからこそ、冬場の足し水は、水温・水質ともに「変化を最小限にする」ことが大切になってきます。
通常、水(真水)は 約4℃、厳密にいえば3.98℃ で最も密度が高く(重く)なります。
そのため、無風の自然界や静かな容器では、表面が0℃で凍っても、それが「断熱材」の役割を果たし、水底には約4℃の水が静かに溜まります。ここがメダカたちの越冬場所(聖域)です。
しかし、強風はこの安全地帯を物理的に破壊します。
風で水面が波立つと、冷やされた表面の水と、底の暖かい水が無理やり混ぜ合わされてしまいます(ターンオーバー)。
これにより、本来守られるはずの水底の4℃層が消失し、容器全体の水温が均一に0℃付近まで低下してしまいます。
さらに危険なのが、波があることで「表面に氷の膜が張れない」ことです。
氷の膜(フタ)ができないため、冷気は水の中に直接入り続けます。すると、水温が氷点下になっても凍らない「過冷却(Supercooling)」の状態や、微細な氷の結晶が水中を漂う「過冷却水からのフレジルアイス(氷晶)形成」が起こります。
静止していれば表面だけが凍るはずが、撹拌されることで水全体が一気にシャーベット状になり、メダカは逃げ場を失って氷に閉じ込められてしまいます。
以上のような仕組みを踏まえると、対策はシンプルかつ明確です。
波板やフタの使用:風を直接水面に当てないことが最強の防御です。蒸発(潜熱損失)と対流(顕熱損失)の両方を防ぎます。
防風ネット・遮光ネット: 完全にフタをしなくても、風速を弱めるだけで気化熱の損失は大幅に軽減されます。夏場の虫よけネットを冬場も応用すれば「減風効果」につながります。
発泡スチロール板:水面に浮かべることで、空気との接触面積を減らし、保温・蒸発防止の効果があります。
こまめな足し水:濃度が高まりすぎる(カレーが煮詰まる)前に、少しずつ水を足して元のTDS(濃度)に戻します。
水温合わせ:足す水の温度は必ず合わせ、メダカにショックを与えないように注ぎます。
ここでもう一つ、少し専門的ですが、非常に重要な「湿球温度(しっきゅうおんど)」という話をさせてください。
皆さんは、理科の授業で「乾湿計(かんしつけい)」を見た記憶はありませんか?
2つの温度計が並んでいて、片方の球部が濡れたガーゼで包まれているあれです。
常に、濡れている方(湿球)の温度計の方が、低い温度を示していたはずです。
実は、冬の風にさらされたメダカ容器は、この「湿球」と同じような状態にあります。
天気予報で「明日の最低気温は 2℃ です」と言っていたとします。
「なんだ、氷点下じゃないから凍らないな」と安心するのは早計です。
もし湿度が低く(例えば湿度40%)、風が吹いていたらどうなるか。
熱力学の計算上、その時の「湿球温度」は 氷点下(約-1.5℃前後) になります。
水面からは激しい蒸発が起き、気化熱が奪われ続けるため、水温は気温の2℃ ではなく、限界まで冷やされた湿球温度の-1.5℃ を目指して下がっていきます。
その結果、
「気温はプラスなのに、水面だけが凍結している」
という、狐につままれたような現象が起きるのです。
これが、風と乾燥が組み合わさった時の本当の怖さです。
僕たちが気にするべきは、天気予報や温度計に表示される「気温」だけではなく、湿度と風速を加味した「水が実際に感じる温度(湿球温度)」です。
とここまで、小難しいことを言いましたが、何も難しく考えることはありません。
何より大切なのは、できるだけ冷たい風を当てないこと。 もし風が当たって水が減ってしまっても、焦らなくて大丈夫です。ゆっくりと水を足して、元の水位に戻してあげてください。
動画の最後でもお伝えしましたが、当養魚場では現在、波板を使わない「雨ざらし飼育」を行っています。
これは決して放置しているわけではなく、愛媛県という比較的温暖な気候に加え、防風ネットや容器の設置場所(壁際など)による「風のコントロール」ができているからです。
ただ、全ての地域において、同じように上手くいくとは限りません。
「波板などの対策が必要か否か」は、過保護かどうかの精神論ではなく、お住まいの地域の
これらを考慮した上での「適切な判断」が大切になってきます。
ぜひ皆さんも、ご自身の環境における「風のリスク」を再評価し、メダカたちを守ってあげてください。