メダカのグアニンが溶ける現象は、まだはっきりした原因がわかっていませんが、環境変化によって虹色素胞の細胞分裂が抑制されることや、水質面(pHなど)、環境変化による色素胞の優位性の変化など、グアニン結晶の不安定化が関係していると考えられます。遺伝的要素も絡み合い、複雑な要因が重なって起きる現象とも言えます。今回の記事ではこの部分を考察していきます。
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メダカの鰭(ひれ)や体表で美しく輝く銀色の粒それがグアニンです。ところが、このグアニンが「溶けた」「消えた」と感じる現象を経験したことのある飼育者も多いでしょう。今回は、その原因を考察していきます。
まず注目したいのは、グアニンが細胞分裂を繰り返しながら鰭の伸長とともに増えていくという点です。
鰭先では、軟条(なんじょう)と共に成長にあわせてグアニンも分裂・増加していきます。逆に、その分裂が止まってしまうとどうなるでしょうか。
実際に、水色のタライで育てた「ラパス」という個体を黒い容器に移すと、体色が周囲に合わせて変化。黒色素胞が拡散して“墨出し”となる一方で、虹色素胞やグアニンの働きは抑制され、鰭先の光沢が弱まり軟条が短くなったことが確認できます。


※上記は、ラパスというメダカの若魚が水色タライという明るい飼育環境下でグアニンを含む細胞の分裂が活性化され、軟条が伸び始めた状態です。

※水色タライで軟条が伸び始めた個体を、グアニンの生成を抑制する飼育環境(暗い場所や黒い容器)に移し、1ヶ月ほど飼育した結果、軟条が短くなったことが確認されました。
つまり、グアニンの細胞分裂が止まると、グアニン由来の軟条の伸長が止まり、短くなるという現象が起こるわけです。
特に、モルフォ系のように軟条全体にグアニンが強く乗るタイプ、初期のブラックモルフォの亜種由来の鰭光では、環境変化によって分裂活性が低下すると、鰭が「溶ける」ことが多く確認されていました。.jpg)

もう一つの要因として、水質が挙げられます。
グアニンは極端な酸性や強アルカリ性の環境で溶解する性質を持つとされています。
たとえば、植物性プランクトンが豊富な「青水」は、日中の光合成によってpHが10を超えることがあります。このとき、グアニンの結晶構造が不安定になり「溶ける」現象が起きる可能性があります。
ただし、青水ではpHだけでなく、水中の微生物活動(代謝熱)により水温も高くなる傾向があります。したがって、高水温そのものがグアニン分解を促進しているのかどうかを区別して考えることも重要です。さらに、青水が濃すぎると病気(尾ぐされ病など)も発生しやすくなり、結果として鰭が損傷するケースもあります。
グアニン結晶の生成には特異的な酵素活性や細胞分裂、pH調節が関与しており、過度な高水温やpH変動はこの代謝を乱すと考えられます。.jpg)
グアニンを安定的に保つには、細胞分裂を止めない環境を維持することがポイントです。
虹色素胞の活性を保ち、常にグアニン細胞が健康に働けるよう、水質を安定させましょう。容器の色や光量、pH、温度を観察しながら、その個体に合った環境を見極めることが大切です。
pHの安定化:青水などでpHが10以上に上がることを防ぐため、適度な換水やバクテリアバランスを保つことが重要です。pHは7.0~8.0程度が理想的。
20度後半の適温を維持し、過剰な高水温を避けることで酵素活性や免疫機能の正常化を促します。
明るい環境で飼育することで虹色素胞(グアニン細胞)の活性化を促進。ただし直射日光は高温やストレスの原因になるため、適度な遮光や日陰確保も行う。また明暗のメリハリをつけストレス軽減と細胞活性維持を。
ヒレ溶けの傾向が強いとされるブラックモルフォ由来の系統は環境変化に特に敏感です。安定した環境下で飼育し、遺伝的な問題が疑われる場合は繁殖計画を見直すことも検討。
水質悪化や高水温で発生しやすいカラムナリス菌感染(尾ぐされ病)に注意し、塩浴や薬浴を用いた早期対処を行う。
定期的な観察によって鰭の変色・損傷、不自然な体色変化があれば速やかに治療を行う。
栄養バランスの良い餌を与える。グアニン生成に必要な栄養素(例えばビタミンB群、亜鉛など)を含む良質な餌を与え、細胞代謝を促進
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下記のような栄養素が大切だとされています。
| 栄養素 | 役割・効果 |
|---|---|
| 窒素源(タンパク質) | グアニンの原料となる核酸の合成に不可欠 |
| ビタミンB群(B6、B12など) | 核酸合成や酵素活性の補酵素として作用 |
| 亜鉛、鉄、銅などのミネラル | 酵素活性維持、細胞呼吸や抗酸化に関係 |
| 抗酸化ビタミン(C、E) | 酸化ストレスからグアニン結晶や細胞を保護 |
| 必須脂肪酸 | 細胞膜構成と色素吸収に寄与 |

太刀魚などの銀色の魚が持つグアニンは、紫外線を反射・散乱して体を保護する役割を果たしています。
この性質を考えると、屋外飼育でロングフィン系メダカの鰭が伸びやすい傾向は、紫外線刺激によってグアニンが活性化・増殖している可能性とも考えられます。
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メダカの鰭が「溶ける」という現象は、単に水質の悪化や遺伝など含め特定のものだけでは説明できません。
環境、色素胞の変化、遺伝、病気―あらゆる要素が複雑に関わり合って現れる現象です。
「なぜそうなるのか」という視点で観察を続ければ、きっと新しい発見が見えてくるはずです。魚の世界は実に奥深く、探究の余地に満ちています。
グアニン自体は水に対して非常に低い溶解度を持つことが知られており(極めて難溶性)、水温やpHなど環境条件の極端な変動によって結晶の安定性が左右される可能性があります。特にpHが極端に酸性またはアルカリ性になると、グアニンの結晶構造は崩れやすくなるとの報告があります。このため青水のような高pH環境がグアニンの「溶ける」現象に一因となりうるとする仮説を立てました。
魚の虹色素胞(iridophores)はグアニン結晶を内包し、光の反射によって銀色や虹色の構造色を作り出します。この虹色素胞の細胞活動状態が色の維持に重要であり、細胞分裂やグアニンの代謝活性が低下すると輝きの減少や色素の変化が生じることは鱗片細胞研究で認められています。環境により虹色素胞の活性が変化し、鰭先のグアニンの輝きが弱まる現象は実際の生態研究でも支持される見解です。
黒色素胞(melanophores)の発現が増え、虹色素胞が抑制されることで「墨出し」や体色の黒化が進むことも魚の体色変動でよく知られており、環境に合わせた色素細胞の動的なバランスによって体色形成が左右されます。したがって容器の色による体色の影響が鰭のグアニン状況に結びついて見られるのは妥当だと考えています。
適度な紫外線は虹色素胞のグアニンの活性化を促し、メダカの体色や鰭の輝きを鮮やかにし、ビタミンDの合成を助け、骨格形成や健康維持に寄与します。一方で、過剰な紫外線、特にUVBはグアニンを含むDNAに損傷を与え、酸化ストレスや細胞障害を引き起こします。過度な紫外線は免疫機能低下や皮膚・粘膜の障害を招き、病原菌感染のリスクが高まります。
このことを踏まえ、適度な紫外線が屋外飼育でのロングフィンの伸長を促進しているという仮説を立てました。
当記事のグアニンが「溶ける」現象に関する仮説は、大筋では正しい内容と評価できるものだと思っています。特に、pHや水温など環境的ストレスによるグアニンの安定性低下、細胞分裂・虹色素胞活性の変化による光沢減少、体色変化のメカニズム、紫外線の影響などは、複数の科学研究が示す現象と整合性があると思っています。
ただし、「グアニンが細胞分裂を止めると鰭が溶ける」という部分は生理学的メカニズムの一仮説であり、鱗片細胞の活動や代謝過程の詳細メカニズム解明はまだまだ未知の分野です。同じモルフォ由来の鰭光でも、軟条の筋に沿ってグアニンが強く現れる亜種表現があります。特に初期のブラックモルフォ亜種由来の個体では、ヒレ溶けがより顕著に見られることがあり、これを考えると、ヒレ溶けには遺伝的要素も関与している可能性が高いと考えられます。このため、ヒレ溶けの原因についてはまだ十分に解明されておらず、今後のさらなる考察や研究が必要です。