メダカの最低水温は何度?0℃より危険な「冬の気温上昇」の罠
メダカが冬に突然死する「三寒四温」の恐怖。CTMinと順化の非対称性によるエネルギー枯渇を防ぐ対策「冬場、氷が張ってもメダカは生きている」これはメダカ飼育における常識です。しかし、実はこの常識には「ある条件下では、5℃でも死んでしまう」という恐ろしい例外が存在することをご存知でしょうか?今回は、YouTube動画で解説した内容をさらに掘り下げ、「魚類生理学」の視点から、冬の温度管理に潜む最大の罠について解説します。当サイトの記事は全てyoutubeにて映像と共に動画でもご覧いただけます。「0℃でも耐えられる」は間違い? CTMinという概念まず、結論からいえば。メダカが生きられる限界の水温は、「固定値」ではありません。ここで重要になるのが、魚類生理学におけるCTMin(Critical Thermal Minimum:下限行動限界温度)という指標です。CTMin(下限行動限界温度)とはCTMin(Critical Thermal Minimum)は、厳密には「魚が正常な姿勢や行動を保てなくなる直前の低温域(下限行動限界温度)」を指します。分かりやすく言えば、「その個体が実質的に耐えられる寒さのボーダーライン」であり、この近辺まで下がると、生理機能や生存に大きなリスクが生じます。例えば、多くの魚類生理学の研究において、以下のような傾向が確認されています。・低い水温(10℃以下)に慣れている場合:0℃近くまで水温が下がっても、生理機能は維持され生存できる。・高い水温(20℃付近)に慣れている場合:身体が「暖かい環境」に慣れることで、5℃付近の水温でも急激に負担が増え、短期間で弱ったり落ちてしまう危険性が高くなります。つまり、普段10℃以下の水温で過ごしているメダカは氷が張っても平気です。しかし、もしヒーターや暖かい日の影響で「水温20℃」という環境に身体が慣れてしまっていた場合、そのメダカにとっての「5℃」は、もはや生存不可能な極寒の世界へと変わってしまうのです。ILLT(下限致死温度)についてまた、CTMinのほかに、ILLT(下限致死温度)という指標もあります。これは「その水温を下回る状態が続くと、多くの魚が長期的には生きていけなくなる境界となる温度」を意味します。CTMin:急激に冷え込んだとき「ここまで下がると、もう正常に泳げない・かなりヤバい」ラインILLT:「この温度帯で何日も続くと、じわじわ落ちてくる個体が増える危険ライン」恐怖の「順化の非対称性」「うちはヒーターを入れていないから関係ない」と思われた方、ここからが本題です。冬場でも、直射日光が当たると容器内の水温が一時的に20℃近くまで上昇することがあります。これが、いわゆる「三寒四温の罠」です。ここで、「順化の非対称性(Asymmetry of Acclimation)」という生理学的な現象が牙を剥きます。獲得(着る)は遅く、喪失(脱ぐ)は一瞬メダカが環境温度に適応することを「順化(Acclimation)」と呼びますが、低温への順化と高温への順化にかかる時間は対等(対称)ではありません。一般的に、多くの魚類では・低温順化(寒さに強くなる)には、少なくとも数日〜数週間、ときに1ヶ月近い時間がかかることがあります。・一方で、高温側への順化(=寒さ耐性の低下)は比較的早く、数日〜1週間程度で進行することが多いとされています。手編みのセーターこれを人間に例えてみましょう。寒さに強くなる過程は、「分厚い手編みのセーターを編む」ようなものです。冬に向けて、メダカは毎日少しずつ、寒さに耐えるための準備を行い、時間をかけてセーターを編み上げます。しかし、水温が急に上がるとどうなるか?メダカの体は「あ、春が来た!もう暑いからセーターはいらないね!」と判断し、せっかく時間をかけて編んだセーターを脱ぎ捨ててしまうのです。その翌日、再び寒波が来て水温が下がったとしたら……。メダカはセーターを持っていません。裸同然の状態で冬の寒さに放り出されることになります。これが、冬の暖かい日の翌日に起きる「謎の死」の正体です。なぜ「暖かさ」への反応は早いのか?(Q10則と代謝コスト)なぜ、寒さへの適応は遅いのに、暖かさへの適応(=寒さ耐性の喪失)は早いのでしょうか。これには「Q10則(温度係数)」という化学反応の法則が関係しています。変温動物であるメダカの体内での化学反応(代謝やタンパク質の合成・分解)の速度は、水温に強く依存します。変温動物では、多くの代謝反応が「水温が10℃上がるとおおよそ2〜3倍に変化する」という Q10 則に従うと言われています。・水温が上がる時体内の反応速度が一気に上がり、急速に「夏仕様の体」への作り変えが進んでしまいます。・水温が下がる時体内の反応速度が低下しているため、「冬仕様の体」への作り変え(セーターを編む作業)には長い時間を要します。エネルギーの枯渇(アイソザイムの浪費)また、メダカは季節に合わせて「アイソザイム(Isozyme)」と呼ばれる、機能は同じでも構造が異なる酵素(冬用酵素と夏用酵素)を作り分けています。冬場、餌をほとんど食べていないメダカの体力(エネルギー備蓄)はギリギリの状態です。そんな中、水温が上がって「春が来た!」と身体が反応すると、メダカは残りの体力を振り絞って、身体のシステムを「春用」に切り替えようとします。しかし、直後にまた寒くなれば、その切り替えに使ったエネルギーは無駄になり、冬を乗り切るための「燃料(エネルギー)」が枯渇してしまいます。温度変化によるショックだけでなく、この「無駄なエネルギー浪費」が、越冬中のメダカを死に至らす大きな要因となります。対策:どうすべきかこれらを踏まえると、冬の管理における最適解が見えてきます。「冬は、下手に温めてはいけない」最も警戒すべきは「日中の極端な水温上昇」です。簾(すだれ)等による過昇温対策具体的な対策としては、例えば夏場使っていた、「簾(すだれ)」の再活用です。冬場であっても、小春日和で極端に暖かい日に直射日光が当たってしまうと水温が外気温以上に上昇します。簾をかける目的は、日陰を作って寒くするためではありません。昼間の水温上昇のピークを削り(ピークカット)、メダカの身体が「春が来た」と勘違いして高温順化(セーターを脱ぐこと)を始めるのを防ぐためです。夜間:冷え込みすぎないように蓋をする等はOK(最低水温の維持)。昼間: 直射日光による20℃超えを防ぐため、簾で光量を調整する(最高水温の抑制)。水温の変化幅(寒暖差)をできるだけ小さくし、メダカに「まだ冬だよ、セーターは脱いじゃダメだよ」と伝え続けること。これが、三寒四温を伴う寒暖差においての冬越し成功の秘訣です。まとめCTMin(下限行動限界温度)は可変である:20℃に慣れたメダカは5℃でも死ぬリスクがある。順化の非対称性: 寒さへの耐性は獲得に時間がかかるが、失うのは速い。エネルギーの浪費:一時的な昇温は、酵素の作り変えや代謝亢進による激しいエネルギー消耗を招く。「良かれと思って日光浴をさせた」その優しさが、メダカにとっては致命的な「季節の勘違い」を引き起こしているかもしれません。冬のメダカ飼育は、攻め(加温・成長)か、守り(冬眠・静止)か。中途半端が一番危険です。ぜひ、急な寒暖差にも早急に対応できる「簾」一枚でできる管理も取り入れてみてください。本記事では理解を助けるために具体的な温度等も記載していますが、これらはメダカに限らず様々なデータや経験則に基づく目安です。実際の飼育環境やメダカの個体差によって反応は異なりますので、絶対的な数値ではないことをあらかじめご了承ください。
Read More